全吹奏楽部員にお勧めする、夏になると読みたくなる本
お久しぶりです。樋渡です。
いろいろ書こうと思っているうちに7月も終わりになってしまいました…
さて、今日は夏になると読みたくなる本、そして吹奏楽の夏がこれからな人も、終わってしまったという人にもぜひ読んでほしい本を紹介します。
■中沢けい/「楽隊のうさぎ」
この本に出会ったのは中学生の頃。たぶん一年生。吹奏楽部に入部した私は、同じく吹奏楽の話というところに惹かれ、おそらく「朝読書」の時間に読むための本として買ってもらったものです。
ちなみにブックカバーもぼろぼろ、セロハンテープもぱりっぱり…それもそのはず、中1から持ってる本なので何と10年経ちました!
■実際の課題曲が出てくる
主人公の克久は中学一年生。「学校にいる時間はなるべく短くしたい」と思っていたのに、なぜか入部してしまったのは朝はどの部よりも早く、帰るのもどの部よりも遅い吹奏楽部。
名門と言われている花の木中吹奏楽部ですが、克久が入学した年にコンクールで演奏することになっている
「交響的譚詩〜吹奏楽のための」
という曲は、実際に1996年度の課題曲となっています。
1995年というと、私はまだ産まれて2年目ですね(笑)
中学校の楽器庫に楽譜があったので、こっそりひろげてみた記憶がありますが、音符の並びが見たこともないくらい難しくごちゃごちゃしていてて「ナンジャコレハ」と思った記憶があります。
■音楽描写が読みやすい
まだ吹奏楽を始めて一年にも満たない、そんな中学生だった頃の私が読んでも、「こんな感じの音楽なんだろうな」と想像できるくらいにはわかりやすい表現で書かれています。
たとえば「枯れ草の匂い」や、「でこぼこ道をキャタピラで走るみたい」など、身近な言葉で書かれていることが多いような気がします。
(以前に紹介した「蜜蜂と遠雷」、こちらは今でこそ理解ができる言葉ばかりですが、なかなか使わない言い回しも出てきてたまに辞書を引いたりもしていました。そう考えると、この本は辞書を引かなくてもわかる言葉ばかりだったなあと!)
■この物語のココがいい
花の木中吹奏楽部は全国大会常連ですが、そこまで駒を進められなかった年もある。そして登場人物たちはその結果をきちんと受け止め、後日談をも物語の一部分としてしっかり描き出されています。
有木部長の
負け惜しみと思われてもいいけど、もうこれから、絶対にこういう音は作れないと俺は思うんだ。うまい演奏とか深い演奏はこれからもできるけど、こんな真剣な音はきっとこれが最後だと。
そして、その有木くんと同級生の川島の
まあ、そうなんだろう。有木の言う通りだよ。君はエライ!でも、俺は下級生に来年はがんばりますと言われると腹が立つんだ。殴ったろかという気になる
という台詞。
コンクールが終わって引退してしまう三年生たちのこの言葉に、今となってみるとすごくすごく共感を覚えます…
確かにそうだ。結果は伴わなくても、ああいう音楽ができたこと、そのものに価値があるんだって思わせてくれる素敵な台詞だなあと思います。そして、だからこそ、「来年はがんばります!」なんて言われると、それまで自分たちが頑張ってこなかったかのような気がしてしまって(もちろんそんなことはないのだけど)。リアルな感情が描かれているなあと思う場所です。
■やっていることが道理にかなっている
克久は二年生に上がるとティンパニを任されます。そしてその年の自由曲は「シバの女王ベルキス」という、ティンパニが活躍する曲。克久はベンちゃんに、打楽器を教えてくれる先生のところへレッスンへ行くよう勧められ、通い始めます。
普通であれば、「打楽器パートのレッスンをしてもらいに、先生を呼ぶ」ところを、「ティンパニのレッスンをしてもらうために、通う」のです。確かに、個人レッスンじゃないとまかなえないよなあ。
そして自由曲について配られる膨大な資料。みんな、曲について勉強するのです。中学生なりに、いろんな文章に目を通して、解釈をしようとするのです。これ、大切だけどやらない中高生の方が圧倒的に多い。曲を表現するために、音楽をつくるために、知識を得る。物語の本筋とはちょっと離れた描写ですが、吹奏楽部以前に、音楽をやる人の心構えや準備としてたいせつなことが書かれています。
そして、音楽は楽しむことが一番、というけれど、そのためにはまず、
真剣に取り組む
ということが前提条件なのだなあと気づかせてくれます。
■まとめ
この本を読んで感じるのは、花の木中は名門吹奏楽部だけど、みんな、コンクールのために音楽をしているわけではないということ。
確かに結果にこだわるような台詞も出てくるけど、でも、それは
「音楽」
をつくりあげた次の段階で求めていること。
金賞のために、全国大会のために、というよりはまず、「こんな音楽をしたい、そのために頑張っている」様子が伝わってきます。
現在吹奏楽コンクールシーズン真っ只中、私の地元では県大会が終わったところです。
日本の吹奏楽部はおそらく「吹奏楽=夏」というくらいに、全日本吹奏楽コンクールに力を費やしていることでしょう。
とは言え、コンクールが全てではないし、それで終わって欲しくない!綺麗ごとに聴こえるかもしれないけれど、結果だけにこだわらないでほしいのです。
有木部長の、「こういう真剣な音はきっとこれが最後だと」という台詞にあるように、自分たちがこれまでに作り出した音楽にもっと誇りを持ってほしいな、と。
吹奏楽部の青春が詰まったこの本、気になった方は是非読んでみてください。
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